「EYES ON ME:THE MOVIE」感想

「EYES ON ME:THE MOVIE」をユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で観た。

アクアシティお台場には何度か行ったことがあるけど、この映画館へ行くのは初めて。
電車で1時間以上かかるこの映画館になぜ行ったかというと、この映画をスクリーンXで観たかったから。

僕は宮脇咲良がパーソナリティを務めている『今夜、咲良の木の下で』を、リアルタイムで聴きインターネットラジオ(以前はオンデマンド配信)でも聴くというのをもう1年半ほど続けているさくのきリスナーである。
そのさくのきで咲良がこの映画はスクリーンXで観ることを強く推奨していたため、お台場まで出向いたというわけです。


スクリーンXというものがどういうものかすらよく分かってなかったんだけど、調べてみたらCJが開発したものなんですね。
なんだCJが開発したやつなんだと訝しむ気持ちも正直湧いてきたけど、両側にも映像が流れる形式ということでライブを観るには良いかもなと思った。

映画館に入って、両側にスクリーンが広がっていたり特殊な壁になっていたりするのかなと思っていたのだが、本当に普通の壁だったのでやや面食らった。

スクリーンX初体験の感想としては、最初はどう観ればいいんだろうという戸惑いがあったものの次第に慣れてきてライブの臨場感を追体験するための装置としてはいいなと思った。

まあ普通の映画でこのシステムを有効に活用できる作品は相当限られると思うので、革新的なシステムとまではいえないかな。
とはいえ映画の上映システムを開発して、それを世界に広げていこうと試みる韓国エンタメ業界のアグレッシブさには改めて驚かされた。


さて肝心の映画に関して。

この映画は本来昨年11月に公開される予定だった作品である。
しかしPRODUCE48の投票操作疑惑の報道によりグループの活動が停止になり映画の公開も延期されることになった。

疑惑が事実と認定され、IZ*ONEの存続はまず不可能だろうと当時僕は思っていた。
昨年IZONEが活動休止になってしまった時、せめて発売直前だった『BLOOM*IZ』とこの映画だけでも体験したかったと思わずにいられなかった。

同じような立場にあったX1が解散し、IZONEが存続することができたのは韓国の他に日本にも運営元があったことと、そしてなによりPRODUCE48以来の活動によりすでに巨大なファンダムが形成されており、そのファンたちがグループ存続に向けて決死の呼びかけを続けたことが一番の要因であることは間違いないだろう。

特に当時の韓国ウィズワンたちの運動の組織力は凄まじく、この人達を敵に回したら恐ろしいことになるなという恐怖心すら感じた。今回の映画はコンサートに熱狂する韓国ウィズワンがもう一方の主役であると言っていいだろう。


映画は昨年6月にソウル蚕室室内体育館で行われた初の単独コンサートの模様が収められている。
このときのセットリストを見ると、当時韓国で発表されていた曲はほとんど披露されたようだが今回の映画では『HEART*IZ』の曲が中心になって紹介されていた。

IZONEはこれ以降『BLOOM*IZ』、『Oneiric Diary (幻想日記)』が発表され、日本でも何作か発表されたが個人的には『HEART*IZ』が断然好き。
楽曲が全部素晴らしい。「猫になりたい」や 「ご機嫌サヨナラ」もこちらに収録された韓国語バージョンの方がなぜかよく聴こえる。

活動曲として接した「Violeta」は「ラヴィアンローズ」に比べるとやや弱いように思えたけど、この中に収録されたものとして聴くとより美しく聴こえるし、クールな「Highlight」と可愛らしくてエモーショナルな「空の上へ」をあれだけ高度なレベルで成立させられるのは、数ある韓国のガールズグループの中でもIZONEだけだろう。


このコンサートも『HEART*IZ』のオープニングナンバーである「ヘバラギ」(「Hey. Bae. Like it.」(Sunflower))で開始される。
甘い幻想で場を満たし、一瞬でIZONEの空間として制圧してしまうようなこの楽曲のパワーが凄まじい。

印象的なシーンはやはりPRODUCE48の楽曲のところ。
「Rollin' Rollin'」みたいなド直球のかわいい系ソングはIZONEにはいまのところ無いように思う。また「I AM」のような正攻法のミドルなR&BナンバーもIZONEとして発表された楽曲にはない。
「Rollin' Rollin'」は奈子、「I AM」はやはりユジンの魅力がそれぞれ存分に引き出される楽曲だと思う。

レコーディングの風景も興味深かった。IZONEはアイドルグループだけどかなり実力主義のグループで、デビュー当初からスキルの高いメンバーの出番が多くなっている印象がある。
レコーディングであれだけ細かく技術的な部分を突き詰めていくと、必然的にスキルの高いメンバーに任せる部分が増えていくんだなと感じた。

「AYAYAYA」もこの時が初披露。咲良がさくのきで「AYAYAYA」のパフォーマンスをして、アイドルとしてのステータスや実力が上がったんじゃないかって思える曲と語っていた。
たしかに「Violeta」までの咲良のパフォーマンスはスキルの高いメンバーに比べると、正直見劣りする部分があったのは否めない。しかし「FIESTA」ではそういった違和感がなくなり、「幻想童話」ではダンスブレイク組に入るまでに成長した。
このコンサートで「AYAYAYA」の過酷なレッスンと本番のパフォーマンスが成長の大きなきっかけになったのだろう。

「好きと言わせたい」は評判の悪い楽曲だけど、この映画で聴くとけっこうグッときた。ビートやキックがかなり強調されている感じがして、サウンドプロダクションを少し変えるだけで楽曲の印象はかなり変わるのかなと思った。自分の思い込みかもしれないけど。

個人的にIZONEの楽曲で一番好きな「Highlight」がしっかり映画の中に収められていたのも嬉しかった。

このコンサートでのこの楽曲に関しては、YouTubeにファンが投稿した動画を見たことがあったが当然それとは比べものにならない臨場感。
クールさとすぐに壊れてしまいそうな繊細さと儚さが共存したようなこの楽曲を完璧に表現できるグループはIZONEだけ。

ラストは「空の上へ」(「UP」)。メンバーがファンソングのような楽曲と語っていたけど、今までこの曲をそういう楽曲だと捉えていなかった。
ここまで緊張感を持って完璧なパフォーマンスを心がけていたメンバーが、緊張感から解き放たれてファンと交流しようとする姿に開放感を味わうことができた。

おそらくIZONEにとって最も重要な楽曲のひとつ。
IZONEのラストコンサートはこの曲か「With*One」で締められるかもなと思ってしまった。

 

この映画は観る時期や状況によって全く感想が異なるに違いない。
もし順位操作問題がなくそのまま上映されていたら、ただただ幸福なものとして消化することができただろう。
あるいは活動休止期間中にもし鑑賞していたら、死んだ我が子を観るような辛さを感じたかもしれない。
色んな苦難をくぐり抜け、IZONEがさらに大きな存在になった中でこの映画を観ることができるのは幸せなことである。

 

しかし順位操作問題というアイドルにとっては致命的とも思える事態に直面して、さらに現在はコロナ禍の中、こういったコンサートがいつ行えるかさえ不透明な状況になってしまった。
そういう意味でこの映画はもう二度と戻ることができない、IZONEにとって最も幸福な時代を記録した作品と言えるのかもしれない。


個人的にアイドルグループには美しい幻想を見せてほしいと思っている。
幻想が9割以上でリアルな部分は1割もいらない。
そんな自分にとってはIZONEこそが理想的なアイドルグループだ。

運営側もIZONEというグループはひたすら美しい時間だけをファンに提供して2年半を駆け抜けようとしていたと思う。
あれだけレベルの高い振り付けと高度なフォーメーションを毎回しっかり揃えて披露するために、どれだけハードなトレーニングを重ねたことだろう。

そして他のグループに比べても徹底したリップシンクが貫かれているのも、こういう高度なダンスパフォーマンスを可能にするということと、破綻した姿を一切ファンの目に触れさせないという運営側の強い意向があるのだろうと思う。

活動再開以降もその方針については大きな変化はないようだ。


しかし運営側の責任によって、美しいものだけをみせる2年半というのは不可能になってしまった。
そして新型コロナウイルスによって積極的に活動する自由も奪われた。
ひたすら花道だけを歩き続けたいという希望はすでに完全に打ち砕かれたと言わざるをえない。


先ほども書いたように、僕はパフォーマンスにおいては美しい幻想だけを見せてくれれば良いとこれまでは思っていた。
しかしIZONEに関しては、パフォーマンスでもリアルな人間味に触れてみたいと今は思っている。
これまでそれなりの期間、いろんな機会でメンバーの人間性を感じてきたせいだろう。

 

活動期間内に通常のコンサートを開催することすら厳しそうな状況だけど、ひたすら美しい時間だった「EYES ON ME」とは違う姿を見る機会が訪れることを強く期待している。

NiziUとTWICE、そしてIZ*ONE

虹プロにはそれほど興味は無かったのだが、NiziUとしてのプレデビューがこれだけ話題になるとグループに対する関心はやはり高くなってくる。
すでに日本では非常に大きな反響を巻き起こしている。

WIZ*ONEとしては辛いがNiziUの日本での勢いはすでにIZ*ONEを凌ぐものがあると思う。

 

虹プロがこれほどの反響を生んだ要因としては、まずはやはり地上波を巻き込んで展開できたことが大きいだろう。
IZONEを生んだPRODUCE48は日本でも視聴はできたけど、当然地上波に比べれば限られた人しか見ていなかった。日本においてはまだまだ地上波の力は強い。

PRODUCE48と虹プロを比べると緻密な編集、重層的な人間ドラマ、息を呑む展開など
オーデション番組に不可欠な番組のクオリティーとしては、PRODUCE48に軍配が上がると思う。

しかしパク・ジニョンという圧倒的なカリスマの存在によってすべてを一点突破してしまうようなパワーが虹プロにはあった。
そしてPRODUCE48にはパク・ジニョンがいなかった。パク・ジニョンのような存在がいなかったからこそあのような悲劇が生まれてしまったともいえる。

IZONEの活動を追うにつけ、多額の予算を使いあれほど大きな展開をしていくアイドルグループを素人が選んじゃそりゃうまくいかんだろうなとは思う。
こんなことを言ってしまっては身も蓋もないが。

IZONEのメンバー選出の「圧倒的な正しさ」と、選考した人間たちに実刑判決が下されているという事実を考えると複雑な感情にならざるを得ない。

 

NiziUのミニアルバムの4曲を聴いてみて、思いのほかK-POP色があるなと感じた。
先輩のTWICEの日本での楽曲はわりと普通のJ-POPで、K-POPのテイストは意識的に除かれている印象があったので、NiziUも日本ではそういう売り出し方でくるのかと思っていた。


NiziUの楽曲を聴きMVを観るだけで、若い女性たちに対する商品性が非常に高いことはすぐに分かる。

古家正亨の韓流ぴあでの連載で、JYPの代表であるパク・ジニョンがエンタメの仕掛人として最も大事にしていることはマーケティングだと語っていると書かれていた。
これはTWICEの活動を追っているだけでもよく理解できる話だ。

韓国でのデビュー以降キャッチーでK-POPらしい中毒性の強い楽曲でトップアイドルに上り詰め、その中でも最も売れた「TT」で日本での活動をスタートし一気に人気を獲得するもののその後日本でリリースされる楽曲に関してはJ-POP色の強い楽曲にシフトされていった。

韓国での活動が好きなファンからは必ずしも好評を得ているわけではないものの、もし日本でも韓国と同じような楽曲をリリースし続けていったらTWICEが日本でこれほど
広く受け入れられることはなかっただろう。

 

K-POPのガールズグループの日本での活動の先駆者である少女時代が「GENIE」「Gee」といった韓国でも大ヒットした楽曲で日本でも大ブレイクし、日本でのデビューアルバムではミリオン超えをして旋風を巻き起こしたものの、その後日本でのオリジナル曲では思うようなヒットにならず失速していった。(2012年に発生した日韓問題の影響も大きいだろうが。)

それを考えれば、日本でのデビューから3年経ってもドームツアーや東京ドーム2DAYSを行えるTWICEは、少女時代を遥かに超えるような巨大で強固なファンダムを日本で形成している、ということができるだろう。

楽曲だけではなく、セールスプロモーションに関しても日本の市場を緻密に計算して行われており、これは当然パク・ジニョンだけの功績ではなく他にも優れたブレーン達がいるのだろうが、パク・ジニョンの中に日本での活動に関してこうした努力が必要であるという判断があることは間違いない。

 

一方のIZONEの日本での総合プロデューサーは言わずとしれた秋元康である。
秋元康マーケティング的な発想を拒否することを公言してやまない。

AKBは良くも悪くも秋元康の思いつきでグループ運営が進められてきて、その結果としてあそこまで巨大なグループになっていったものの近年ではその弊害の方が大きくなっているように思う。

もう一方の坂道シリーズは現状若い女性たちからも支持を得られているものの、これは村松俊亮を中心にしたソニー・ミュージックのクリエイティブの力が大きいだろう。
ソニー・ミュージックはYUI西野カナなど00年代からふわっとした可愛らしいビジュアルイメージ等若い女性からも支持を得られるフォーマットを確立している。
坂道シリーズの全体的なコンセプトにに秋元康のセンスが強く反映されているとは思えない。


IZONEは日本デビューのころから「若い女性たちから抜群の人気」というのを売り文句にしてきて実際高い人気を得てきたものの、日本でリリースしてきた楽曲に関しては若い女性たちを熱狂させることはできていない。

IZONEの日本での活動においては若い女性から強く支持されるグループを目指すというコンセプトは決まっていたのだろうが、問題は秋元康AKS(現ヴァーナロッサム)には若い女性から支持されるコンテンツをクリエイトする能力が無いということだ。

日本でのデビュー曲となった「好きと言わせたい」は発売前にCDTV年越しライブで初披露されたが、その時ツイッター上では失望の声が多数上がっていた。韓国でのデビュー曲「La Vie en Rose」と比べたときのクオリティーの差は歴然としていた。

とはいえその後に日本でリリースされた楽曲を考えると、AKBの楽曲にもありそうな王道の秋元ソングという感じの「好きと言わせたい」はまだマシだった。

2ndシングル「Buenos Aires 」は若い女性に受けそうなオシャレな仕上がりを目指したのだろうが逆に無残な事になっていた。

3rdシングル「Vampire」はAKBでもしばしば試みられるモロに往年の歌謡曲を意識した楽曲であったが、迷走してる感は否めなかった。
またCDのジャケット写真や歌番組での衣装のダサさなども疑問の声があがることが多かった。
(批判的なことを書き連ねてきたが、個人的にはTWICEの日本楽曲よりIZONEの秋元楽曲の方が好みではあるのだがそれに関してはまた今度書いてみたい)


とはいえIZONEは日本でのデビュー直後から主要な歌番組にはほとんど出演することができていたし、「深イイ話」で特集されたり「しゃべくり007」のような人気番組にも出演でき、普通の新人グループであればこんな待遇はありえないことで、これは秋元グループとしての利点だろう。メンバーも色んな番組で高いバラエティ対応能力を発揮していた。

またリリイベに関してはコスパが良いということで評判も良いようで、このあたりはAKSが力を発揮できる分野なのであろう。

不正問題とコロナウイルスによって日本での活動が難しくなったことによって、期待をむしろ高めていることは皮肉だが、そろそろ日本でも何らかのアクションを起こす必要があるだろう。

IZ*ONEに残された時間はもうそれほど多くはない。